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zoom RSS 堀田善衛「方丈記私記」

<<   作成日時 : 2016/05/12 09:05   >>

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堀田善衛氏は3月10日の大空襲の日、洗足池近くの友人の家で、赤い東の空を見ていたようだ。  その後日、知人の安否を確認するため、深川の富岡八幡宮近くに行き、偶々、視察に来た昭和天皇に対して、被災者がなんと申し訳ありませんと謝る姿を目撃した。 堀田氏は、それを見て、この国の政治や体制に対する怒りと憤りを隠せなかった。


この頃から上海に旅立つまで、堀田氏は方丈記を繰り返し読んでゆく。 大空襲のあとの人びとの姿は、方丈記で鴨長明が描く大火災後の京の街がかぶって見える。  前半は大空襲と方丈記の世界とが交差するが、後半から鴨長明の人となりが中心にして描かれ、ただ単なる無常感の人だけではないことがわかる。

鴨長明は、神主の息子、歌人にして奏楽にも通じ、たいへん才能豊かな男だった。  しかも、好奇心豊かで、大火事の現場に出向き、火元を確かめたりする。  そういう実証的、実践的な態度は、当時の宮廷や歌人の世界では異色だったろう。 

才知に溢れ、不遇だから、今風に言えばとがったもの言いや行動になる。 せっかく後鳥羽院から鴨大社の禰宜に推薦されたのに、以前長明に恥を書かせられた縁者が横やりを入れ、仕官がかなわなかった。 それもあって、大原山に、ついで日野山に方丈を構え出家して隠棲する。 

堀田氏はこう評する。  「どうにもトゲがのこる。 いつまでたっても、出家をしても、世を捨てても、六十になってもトゲののこる人であった」 ・・・ 出家しても貴族であり、貴族社会の人である西行と異なり、脱落者である長明が、乞食が、「夫、三界は只心ひとつなり」と言うことを忘れてはいけないという。 



建築設計にも通じていた鴨長明の住処は組立式だったという。 そして方丈記の 「ゆく河の流れは絶えずして・・」の有名な一節は、実は、水の話や泡の話ではなく、「世中にある人と栖と、またかくのごとし」という、住居の話なのだと主張する。

堀田氏は、自らの青春時代と鴨長明の時代を重ねている。

「長明の青春は惨憺たる時代に置かれたものであったとは、言って過言ではない。  はじめの火事騒ぎは、長明二十五歳の時、その次の大風は二十八歳の時、都還りという政治的災禍の時は同じく二十八歳、大飢饉は二十九、三十歳の時、最後の三か月にわたる連続大地震は、三十三歳の時である」


本筋ではないが、1944年の南海大地震が報道管制で報道されなかった話や、近衛文麿の上奏文が、資本家と貴族を除いたほかは、活発な人々は誰もかれもがぜんぶ共産主義者だと主張しているような、「国体と称するものも、要するに自分たちと天皇ということにほかならぬと思われる」・・・がおもしろい。 

しかし、この近衛文麿の上奏文は、堀田氏の言うとおりだとしたら、ひどいものだ。  「この上奏文全体を何度読んでみても、九十九パーセントの国民の苦難など、痛快なほどに無視されている」 ばかりでなく、 まったく目の前の事実が見えていないのだ。

堀田氏は、長明の時代、定家が本歌取りの伝統を確立したことを、かなり重く捉えている。 その本歌取りは、古歌をベースに古歌から新しい歌をつくりだす芸術至上主義でもあり、同時に古歌とその方法論の権威主義を生んだものだからだ。 その権威主義の伝統は、この日本に深く沈潜しているというのだ。 その権威は批評も拒否する。 

「1945年のあの空襲と飢餓にみちて、死体がそこらにごろごろしていた頃ほどにも、神州不滅だとか、皇国ナントカとかという、真剣であると同時に莫迦莫迦しい話ばかりが印刷されていた時期は、他になかった。 戦争中ほどにも、生者の現実は無視され、日本文化のみやびやかな伝統ばかりが本歌取り式に、ヒステリックに憧憬されていた時期は、他に類例がなかった」

「天皇制というものの存続の根源は、おそらく本歌取り思想、生者の現実を無視し、政治のもたらした災殃を人民に眼をパチクリさせられながら無理やりに呑み下さされ、しかもなお伝統憧憬に吸い込まれたいという、われわれの文化の根本にあるものに根づいているのである」




堀田善衛「方丈記私記」(筑摩書房 1971.7.10)
一  その中の人、現し心あらむや
二  世の乱るゝ瑞相とか
三  羽なければ、空をも飛ぶべからず
四  古京はすでに荒れて、新都はいまだ成らず
五  風のけしきにつひにまけぬる
六  あはれ無益の事かな
七  世にしたがへば、身くるし
八  世中にある人と栖と
九  夫、三界は只心ひとつなり
十  阿弥陀仏、両三遍申してやみぬ

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