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zoom RSS トーマス・セドラチェク「善と悪の経済学」これぞ良書、ただし理解には幅広い教養が必要だ

<<   作成日時 : 2017/05/19 08:39   >>

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これは大変な良書だ。しかし、残念ながら、この本をよく理解するには、私の知性と教養の程度は全く不足している。

トーマス・セドラチェク氏は、チェコ生まれの若い(1977生) 経済学者。  若いのに、ひどく老成した印象の深い論説を繰り広げる。  終盤で「本書は、機械論的・強権的な主流派経済学に対する批判の書と言ってよい」と語るように、魂や倫理や哲学を忘れた経済学ではいけない、だって、もともと経済学は道徳哲学だったのだからと。

なんと4000年以上前の最古の文学ギルガメッシュ叙事詩から始め、主要な思想・宗教・哲学を漏らすことなく経て、アダム・スミス、マンデヴィルなどの経済学黎明期から現在の計量経済学に至るまで、経済学の歴史を善と悪の軸に並び直しているのだ。

いまの主流派経済学の、すべてを利己心と計算尽くに還元しようとする傾向は、最初の経済学者マンデヴィルの発想から来たものと主張する。

「現在知られている形での市場の見えざる手を思いついたのは実際にはマンデヴィルであって、アダム・スミスであるとする今日の見方は誤りである」

「経済学を初めて明確な形で論じ、経済的厚生や倫理との関係を取り上げたのは、何と言ってもマンデヴィルである。個人の行動が意図せずして社会に利益をもたらすことを初めて系統立てて考えたのも、社会の幸福は利己主義がもたらすことがありうるし、むしろそうあるべきだと、と初めて堂々と主張したのも、マンデヴィルだった」

つまり悪徳が社会的な善になると。 アダム・スミスはもっと倫理的である。

「人間というものをどれほど利己的とみなすとしても、なおその生まれ持った性質の中には他の人のことを心に懸けずにはいられない何らかの働きがあり、他人の幸福を目にする快さ以外に何も得るものがなくとも、その人たちの幸福を自分にとってなくてはならないと感じさせる」(アダム・スミス「道徳感情論」)

「要するに今日のアダム・スミス像は、スミス本人ではなく他人が言ったこと、たとえば万人の万人に対する闘争を主張したホッブスや、見えざる手によって悪徳が徳になることを匂わせたマンデヴィル、社会進化論と最小国家主義を唱えたハーバード・スペンサー、還元主義とラディカルな利己主義を掲げたアイン・ランドの発言から形成されている」・・・アイン・ランドまででてくるのだから、大したものだ。

上記が、この本のエッセンスであるが、その他にも要所要所にポイントがある。

「アリストテレスは、物質的安定への欲求から好ましい動機が形成されると主張した」

「エピクロス派を源流とする功利主義的な経済哲学は、ジョン・スチュアート・ミルによって主流となった」

主流のトレンドは、結構、温かいものなのだ。

「人間の法律は、神の永遠の律法に抵触してはならない。(中略)人間の命がかかっているときには、私有財産制は無視される」

「金持ちは、困窮の際にはよろこんで他人と共有しなければならない。(中略)「飢えた人は満たされるまで他人のぶどうを食べてよいが、一粒たりとも持ち去ってはならない」」

最近の計量経済学、数学志向についても、批判的である。

「アメリカでGDPが継続的に計測されるようになったのは1790年のことだ。つまり、それまで人類はGDPなしで済ませていた」

「経済モデルを使った予言がうまく的中するのは、現実が(偶然にも)モデル通りにふるまった場合、すなわち、モデルが依拠する過去の事例からさほど乖離しなかった場合に限られている」

「経済学はいまなお社会科学の一部門であり、ときに自然科学の仲間のふりをしているとしても、決して自然科学ではない」

「経済学者は未来を説明したがっているが、じつは過去さえ説明できないことがままある」


若手だからだろうか、セドラチェク氏の例え話には映画がよく出てくる。 「マトリックス」なんか出てくるのだ。「指輪物語」の中ではお金や売り買いが出てこない、すべて贈られる、とかとか。


最後に、おもしろい比喩がある。

「この三杯目のビールのマジックは、経済成長を象徴している。そして現在経済が抱える問題は、三杯目のビールが現れないことだ。要するに、経済が成長しないのである」

「物質的目標を追求する経済政策は、必ず借金へと突き進むことになるからだ」




トーマス・セドラチェク「善と悪の経済学」(東洋経済新報社 2015.6.11)
第1部 古代から近代へ
第1章 ギルガメシュ叙事詩
第2章 旧約聖書
第3章 古代ギリシャ
第4章 キリスト教
第5章 デカルトと機械論
第6章 バーナード・マンデヴィル−蜂の悪徳
第7章 アダム・スミス−経済学の父
第2部 無礼な思想 
第8章 強欲の必要性―欲望の歴史
第9章 進歩、ニューアダム、安息日の経済学
第10章 善悪軸と経済学のバイブル
第11章 市場の見えざる手とホモ・エコノミクスの歴史
第12章 アニマルスピリットの歴史
第13章 メタ数学
第14章 真理の探究−科学、神話、信仰
終章 ここに龍あり









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