「いつか、この世界で起こっていたこと」で初めて知った黒川氏の私には2冊目の小説。どちらも、震災と原発事故の後、人びとの暮らしにひっそりと忍び込んだ異常に目を向けている。この「岩場の上から」は、更にもう一歩政治状況にも踏み込んでいる。 ときは2045年、北関東の田舎町「院加」の駅頭で、戦後100年の平和を訴えるビラ配りをしている人びとと、それを見守る公安の私服たち。「戦争」という言葉を発すると、公安は、その言葉はだめだ、「積極的平和維持活動」と言えと注文を付ける。いま、日本の「軍」は中東に行ってそういう活動をしているらしい。報道は何もないけれど。 この町には、軍の演習地と「望見岩」という名所がある。岩の地下深くに使用済み核燃料の最終処分場が密かに計画されて調査の工事が進んでいるという噂が絶えない。なにしろ、原発はいまどれだけ稼働しているのかすら、だれも知らないのだ。 2010年代後半に経済政策の失敗で失脚した元首相が首相官邸に居住したまま、総統という地位にとどまっているという噂も流れる。それは、時々総統府からのメッセージが公表されるが、だれも総統を見たことがないからだ。 そんな世の中、院加にひとりの少年が降り立った。・・・ ネタバレは避けるけれども、この結末は、予想通りだけれども、まったく不本意だ。小説なんだから、もっと大胆に楽しませろよと、言いたくなる。 少年シンとめぐみちゃんは、未来の人生を歩む。 シンの母親は自らの出自も考慮しながら、するべきことをしようと考える。 院加の町の住民や、道東の人々も、自分たちの生活の範囲内で、やるべきだと思ったことをやっている ・・・・ だったら、なんで、こんな世の中になったのだろう。 黒川創「岩場の上から」(新潮社 2017.2.25) 序章 百年の終わり 第一章 地層 第二章 しずく 第三章 からだ 第四章 見えるように 第五章 振り返ると 第六章 川 第七章 雨 第八章 トンネル 第九章 影 第十章 伝言 終章 峠の家 |
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