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zoom RSS マイケル・ルイス「かくて行動経済学は生まれり」ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの物語

<<   作成日時 : 2018/01/31 15:04   >>

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著者がたいへん好評を得た「マネーボール」の書評のなかに、「野球をよく知るスカウトたちがなぜ見誤るのか、深い理由があるのを著者は知らないのか」という、厳しいものがあったという。 認知心理学のことを知った筆者は、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーにたどり着き、彼らの人生と、彼らの研究を、なめらかでわかりやすい筆致で描き出した。 とても面白い。

この本の面白さには二つの面がある。 ひとつは、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーというふたりのイスラエル人心理学者のひととなりや国とのかかわり方を知ることだ。 何度も中東での戦争を繰り返したイスラエルという国は、学者や大学教授でも前線に行ったり、兵士の性格テストなど、軍の育成や管理に心理学者として協力するのだと、たいへん驚いた。 小さな国なら当然なのかもしれないが。

もう一つの面白さは、心理学者や二人が研究に使う様々テストの事例を、一緒になって考えてみる楽しさだ。 いくつか挙げてみよう。

・ 類似性判断の非対称性について・・・詩人が「私の愛は海のように深い」と書いても「海は私の愛のように深い」としないのは、海は深さの典型としての表現だからだ」

・ 「対象に共通する特徴を数え上げ、その共通点が多いほど二つは類似しているとみなす」

・ 6人の子どもの出生の順番、男男男女女女 と 女男男女男女 どちらの確率が高いか ・・・ 「それは人が、出生の順番はランダムなプロセスだと思っていて、後者の方が全社より”ランダム”に思えるからだ」・・・確率は同じなのに。

・ 標本数が少ないほど、大きな集団の特徴が現れない可能性が高くなる

・ 文字"K"が使われるのは □ 一文字目 □ 三文字目 どっちが多い。 その比率は? ・・・ 「簡単に思い浮かべられる、つまり利用可能である状況ほど、起こる頻度は高いと感じてしまう」 ・・ 利用可能性ヒューリスティック

・ 次の式の答えを、わずか5秒のうちに、予測の数値を言うとする。 
@   8x7x6x5x4x3x2x1 =
A 1x2x3x4x5x6x7x8 =
なぜか、@の方が大きな数字になる

・ 「手術が成功する可能性は90%と告げると、82%の患者が手術を選ぶ。しかし手術で死ぬ可能性が10%あると説明すると、手術を選ぶ人の割合は54%まで下がってしまう」

・ @ 確実に500万ドル手に入る  あるいは A500万ドルを手に入れる確率は89%, 2500万ドルを手に入れる確率は10%、 何も手に入らない確率は1%  このときは誰もが@を選ぶ。 しかし、

  B 500万ドルを手に入れる確率は11%, 何も手に入らない確率は89%   あるいは C2500万ドルを手に入れる確率は10%, 何も手に入らない確率は90%  どちらも確率になると、勝つ可能性はわずかに低いがより多くの額が手に入る方を選ぶ

心理テストの本は深い意味を知らなくとも楽しい。 

二人の研究は、医療、そして、経済学に少しずつ影響を与えて行った。 心理学者と経済学者は、その頃は犬猿の仲だったようで、ハーバード大学の社会心理学者のエイミー・カディは、「問題は、心理学者は経済学者のことを不道徳だと思い、経済学者は心理学者をばかだと思っていることです」と語る。  

更に、「ダニエルとエイモスが始めた議論が、法律や社会政策の分野にも波及し始めた。心理学が経済学を通して、これらをはじめ他の領域にも入り込んでいく。 リチャード・セイラーが新たな分野を生み出す助けとなり、それに”行動経済学”と名前をつけた」


ふたりの代表的な論文、 「不確実な状況下での判断−ヒューリスティックとバイアス」(サイエンス)で、はっきり答えがわからないことを判断するときのアプローチとして、代表性、利用可能性、係留の三つのヒューリスティックを説明している。 

「「類似しているからといって安心する「代表性ヒューリスティック」、手近なものや見慣れたものを無条件で信じる「利用可能性ヒューリスティック」、インプットのパターンに一貫性があると、理屈抜きで予測に自信満々となる妥当性の錯覚、初期値に推計値が左右されることに気づかない「アンカリング」」、更に、ダニエルは、「第四のヒューリスティックがあるかもしれないと考えていた。”シミュレーシヨン・ヒューリスティック” − 彼がそう呼ぶようになったヒューリスティックは、人の頭の中に入り込んでくる、起こったかもしれない別の現実に関わっている。人は毎日の生活の中で、未来に起こることをシミュレーシヨンする」

さて、これらのヒューリスティックについて、"あるある"という程度で同意して楽しむことはできるが、その本当の意味や影響は、理解できている気はしない。 

そのほかにも、興味深い話題が満載だ。

・ 保有効果、見たくないものを見ない確証バイアス、将来の価値を低く見積もる”現在バイアス”、最初から予測できたはずだと考える”後知恵バイアス”

・ ウォルター・ミシェルの「マシュマロ実験」

・ 経済学は前提にする推移的(CよりB, BよりAなら、CよりA)な合理的予測は実際は必ずしもそうはならない

・ ジョージ・ミラーの、人の短期記憶で覚えていられるのは七つ前後であるという、「マジカルナンバー7+-2」

・ 統計的に正しい答えがある問題を解くときでも人は統計学者のようには考えない主観的確率

・ 最初に頭に浮かんだことを必要以上にそれが正しいと思い込んでしまう恐れがある

・ 関節炎について言えば、選択的なマッチングによって、人は痛みが強くなると天気の変化に目を向けるが、痛みがやわらいだときは、天気をほとんど気にしない。痛みがひどくて天気が荒れた日がたった一日あれば、これら二つが関連しているという思い込みが一生続くのだ

・ フォン・ノイマンとモルゲンイュテルンの”独立性公理”の原則「二つのうち一つを選ぶとき、何か関係ない選択肢が加わっても結果は変わらない」

・ 「人はやってしまったこと、やればよかったと思っていることについては、やらなかったことや、おそらくやるべきとだったことに比べ、はるかに強く後悔するのだ」

・ 「ほぼ見込みのないことに対して感情的な反応が起こると、リスクの見方がふだんと逆になり、勝つ可能性がほとんどないときにリスクを負い、負ける可能性がほとんどないときにリスクを避けようとする(だからこそ人は宝くじも買うし保険にも加入するのだ)

・ 「つまり基準点(利益と損失を見分ける点)は、固定された数字ではないのだ。それは心理状態だったのだ」

・ 人の意思決定を後押しするのは、その対象がどのように提示されているかという、”選択アーキテクチャ”


これらを一言で表現すると、「人間の思考がいかに非合理に弱いか」だ。





マイケル・ルイス「かくて行動経済学は生まれり」(文藝春秋2017.7.15)
序章 見落としていた物語
第1章 専門家はなぜ判断を誤るのか
第2章 ダニエル・カーネマンは信用しない
第3章 エイモス・トヴェルスキーは発見する
第4章 無意識の世界を可視化する
第5章 直感は間違える
第6章 脳は記憶に騙される
第7章 人はストーリーを求める
第8章 まず医療の現場が注目した
第9章 そして経済学も
第10章 説明のしかたで選択は変わる
第11章 終わりの始まり
第12章 最後の共同研究
終章 そして行動経済学は生まれた


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