Dora_PaPa_san's_Pages

アクセスカウンタ

zoom RSS オーウェン・ジョーンズ「チャヴ 弱者を敵視する社会」

<<   作成日時 : 2018/11/09 15:23   >>

トラックバック 0 / コメント 0

「チャヴ」という言葉を初めて知ったのは、ブレイディみかこ氏のイギリス事情の報告だったが、この本で、「チャヴ」という言葉が、いかにひどい状態を示しているか、よく理解できた。 



差別用語「チャヴ」は、ロマ族の言葉で「子供」を指す「チャヴィ」からきている。 2005年には、チャヴは、「カジュアルなスポーツウェアを着た労働者階級の若者」だったが、いまでは、「中流階級の謙虚さや上品さがなく、悪趣味で品のないことにばかり金を使う浪費家」の労働者階級を軽蔑する呼称になっている。

それは、サッチャーが始めた「上からの階級闘争」の結果でもある。 労働組合を潰し、イギリスの製造業を壊滅させ、持ち家政策によって極端に減った公営住宅に住む人々は、仕事もない、教育もない、最下層の人々になってしまった。 そして、労働者階級の誇りも何もかも失わせ、笑いものにしてもいいという風潮を造り上げた。 保守党はもちろん、裏切り者のトニーブレアが代表するニュー・レイバーも輪をかけて労働者階級を分断した。

「あなたの最大の業績は何ですか?と訊かれたマーガレット・サッチャーが、ためらうことなく、「トニー・ブレアとニュー・レイバーね。敵を変節させたのだから」と答えたのも無理はない」。

サッチャーの下位中流階級の価値観は、「個々人が己を豊かにして積極性を持つことや、団体行動を毛嫌いすることなど」であって、「社会などというものは存在しません。個人としての男と女がいて、家族があるだけです」という極端な個人主義だ。 

サッチャー政権は、「労働者階級の価値観、組織、伝統的な産業を一掃」、社会における労働者階級の政治的、経済的な力を削いだ。 そして、「サッチャリズムは労働組合を叩きのめし、税の負担を富裕層から労働者階級と貧困層に移し、ビジネスから国の規制を取り払って、イギリス史上もっとも激しい階級闘争をおこなった」。 

結果として、「コミュニティの多くは完全に破壊された。仕事を失った人々はドラッグに走り、まともな職につけなくなった。 仕事自体がいっさいなくなってしまったからだ。 これがコミュニティを崩壊させ、家族をバラバラにし、若者を制御不能にしたのはまちがいない」

サッチャー派が正当性の根拠とした「トリクルダウン」は明らかに起きなかった。 そこでサッチャリズムは、失敗した経済政策の犠牲者たちを攻撃しにかかった。 彼らが苦しんでいるとしたら、それは自己責任である、と。




ブレア政権は、「「向上心があって、労働党が向上心を支援していないと感じている労働者階級」と「向上心のない労働者階級」を区別した。「向上心のない労働者階級」は、ニューレイバーにとっては用がない。ほかに行き場もなく、いずれにしろ投票もあまりしないから、無視していい」。 結局、彼らの「向上心」とは、中産階級になることを目標とすることだ。

ニュー・レイバーの政策は、「道徳心が足りないから貧しい」という考えを福祉改革などの計画を通して広め、「無能で向上心もなく、たかり屋で社会秩序を乱し、暴力をふるうという、「チャヴ」の一連の悪いイメージを根付かせるのに手を貸した」。 逆に、「頂点に立っている者はそれだけの価値があるから」と、メリトクラシーは考えるのだ。




政治家は、労働党も保守党も、労働者階級、「チャヴ」を厄介者と排除し続けた。 そして、メディアも同様だ。 だいたい、政治家もジャーナリストも、労働者階級のことを知らないのだ。 

たとえば、「議員で私立校にかよった人の割合は、国民平均の四倍以上で、保守党議員について言えば、驚くべきことに五人のうち三人が私立校出身者だ」

格差がつき、広がるのは、「おもに「文化的資本」のせいだ。たとえば、両親も中流階級でよい教育を受け、だいたい大学を卒業しているおかげで、ふだんから豊富な語彙に接し、本に囲まれて育ち、大学に進むことが、専門職につくまえの最初の一歩としてほぼ「当たり前」な環境、といったことを意味する」。




保守党が、社会問題の原因のひとつとして、好んで用いるのが、「昔ながらの家族が崩壊したからという説明だ。いつの間にか、ひとり親の家庭に批判が集中するようになった」。 

シングルマザーは、「生活保護を受けていると、いずれにしろ怠け者のたかり屋と見られるし、働きに出れば、育児放棄をして子供がどこでどんな悪さをしているかも知らないと思われるから」。 どっちにしても救われない。 そして、「シングルマザーと聞くと、すぐに思い浮かべるのは十代の幼い母たちだろう。 だが実際には、18歳に満たないシングルマザーの割合は五人に一人だ。 ひとり親の平均年齢は36歳で、半数以上は結婚していたあいだに子供ができている」結婚。 しかしイメージは若い性的にだらしないというイメージだ。 

保守党は、「労働党が定めた妊娠中の健康維持のための助成金を廃止し、ひとり親に対して子供が五歳になったら仕事を探すことを義務化し、児童手当を停止するなど、とりわけシングルマザーに苛酷な社会保障費の削減と罰則を導入した」




シングル・マザー以外にも、チャヴ層に対する、ほとんどいじめのような政策はいっぱいある。

デビッド・キャメロンは、「無料で何かが得られる文化を終わらせる。合理的な条件の仕事につかないのであれば、生活保護は打ち切る。例外はない」と宣言した。 

住宅担当大臣は、公営住宅入居者の失業率の高さを冷笑して、「仕事につかない者は家を失う可能性があるとほのめかしたのだ。 新規の貸借人は入居前に仕事を探すという「誓約書」に署名するが、いずれはそれを、すでに公営住宅に住んでいる人々にも適用する」と、脅した。




しかし、こんな当たり前の事実は、誰も言わない。

「社会保障費の不正受給による損失は年間約10億ポンド(約1450億円)と見られているが、公認会計士リチャード・マーフィーの綿密な調査によると、脱税による損失は毎年700億ポンド(約10兆1500億円)、不正受給の70倍だ」。 

「非常に皮肉なことに、デューズベリー・ムーアのような地域で暮らす貧しい人々のほうが、彼らを攻撃する裕福なジャーナリストや政治家たちより、収入比でいえばより多くの税金を払っているのだ」





そして、階級闘争に負けた下流の白人労働者の向かう先は、当然のことに移民だ。

 「自分たちの生活に起きていることを誰も説明してくれないとわかったとき、一部の人たちは、ほかの論理を探しはじめた。攻撃の的になったのは、サッチャーの階級闘争で勝利した「富裕層」ではなかった。 労働者階級の何百万もの人々の欲求不満や怒りは、「移民」にむけられた」。  

でたらめな政策のBNPは、「不平等を人種問題にすり替えて焦点を当て、多文化主義を悪用した。つまり、白人労働者階級を、迫害された民族的マイノリティと見なしてプロパガンダに用い、反人種差別的な外見を整えたのだ」。

経営者も右へ倣えだ。 「雇用者の視点で考えると、移民は比較的安い賃金でしつかり働く、ならば現実的に考えて、ほど勤勉でないくせに高い給料を要求するイギリス人を雇う必要がどこにある」





ケン・ローチの映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」が描いていた、労働者やシングルマザーの苦しみと、まるでいじめのような政治の制度が、まったく本当のものだと、よくわかった。 新自由主義の流れの恐ろしさ、いったん流れ始めると、もう、よってたかって、おぼれたものを叩き始めるようなものだ。 日本だって、きっと、おなじようなものだ。 





オーウェン・ジョーンズ「チャヴ 弱者を敵視する社会」(海と月社 2017.7.28)
CHAVS THE DEMONIZATION OF THE WORKING CLASS
はじめに
1. シャノン・マシューズの奇妙な事件
2. 「上から」の階級闘争
3. 「政治家」対「チャヴ」
4. さらしものにされた階級
5. 「いまやわれわれはみな中流階級」
6. 作られた社会
7. 「ブロークン・ブリテン」の本当の顔
8. 「移民嫌悪」という反動
9. 「新しい」階級政治へ




テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
オーウェン・ジョーンズ「チャヴ 弱者を敵視する社会」 Dora_PaPa_san's_Pages/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる