ジョセフ・E・スティグリッツ「世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠」

スティグリッツ氏の主張がたいへんよくわかるたくさんのレポートをテーマによってまとめ、それらに氏自身の解説を加えたもの。
氏の主張を私なりに簡潔にまとめると、アメリカはレーガン政権以来の間違った政策によって極端な不平等社会となっている。不平等は経済的に見ても成長の阻害になるから、経済政策として今の米国のような極端な不平等をなくさないといけないと主張する。 トリクルダウンは起こらないし、従来にはなかった機会の不平等がおこっている。 

スティグリッツ氏の主張から内容の軽重を問わずつまみ食いしたものをあげておく

・保守派の経済学者は分配よりもパイを大きくすることを主張する傾向にある ・・・ しかし、パイは大きくならないし、大きくなってもトリクルダウンは起らない

・「世界経済における金融化の進行と、不平等の拡大には明らかな相関関係がある」(ガルブレイス) ・・・ 金融業界の政治への浸透が激しいのでしょう。「銀行を含めた金融セクターは、搾取歴の長い伝統を持っている」

・「銀行を救済する本来の目的は、資金の提供役をつづけさせ、経済の機能を維持することだ。しかし条件が課されなかったため、注入された資金は貸し付けに回されず、銀行家たちへの不適切な超破格ボーナスに姿を変えてしまった」・・・銀行家や株主にカネを回さずに銀行をつづける方法はあったとスティグリッツ氏は主張する

・「個々の失敗の原因は、ほとんどひとつに帰着する。市場には自己調整能力があるのだから、政府の役割は最小限にすべきという考え方だ」

・「各銀行にそれぞれのリスク管理を徹底させれば、金融システム全体がうまく機能すると監督官庁は思い違いをしていた。驚くことに、規制担当者は”システミック・リスク”に関心を払っていなかった」

・「エンロンとワールドコムの事件の後、改革の必要性が議論され、サーベンス=オクスリー法が改革の口火を切るかに思えた。しかし、同法は最も根源的な問題、すなわちストックオプション制度を攻撃対象からはずしてしまっていた」

・「さまざまな場面で、影の主役を演じてきたのは、選挙資金の提供者に依存するアメリカの政治制度だ。ウォール街はこの制度を通じて、巨大な影響力を行使し、既成の骨抜きを推し進め、規制反対派を規制当局者に指名してきた」

・「不平等は、20世紀の資本主義の問題ではなく、むしろ20世紀の民主主義の問題である。 心配なのは、アメリカのえせ資本主義-利益はふところへ入れ、損失は社会のツケにする制度―と、不完全な民主主義― 一人一票より一ドル一票に近い制度―が互いに影響し合い、経済と政治の領域でいずれも失望感をうみだしてしまうことだ」

・ 「経済学者を含め、TPPのような協定を熱心に支持する人は多い。擁護の基盤となっているのは、すでに正体を見破られた”似非経済理論”だ。”えせ”がいまだにはびこる主因は、富裕層の利益に合致するからである」

・ 「フーヴァー大統領は緊縮財政の方程式を使って、単なる株式市場崩壊をみごと世界大恐慌に発展させた。わたしがじかに目撃したのは、東アジア諸国に押しつけられたIMFの緊縮策が、景気下降を不況に変え、不況を大不況に変えていくさまだった」

・ 「最上層の税金を上げて最下層で下げると、消費の増加につながる。国内に投資していない企業の税金を上げ、投資している企業の税金を下げれば、投資が奨励される。海外での戦争に支出する場合と、教育に支出をする場合では、乗数効果―一ドルの支出がどれだけGDPを増加させるか-は後者のほうが圧倒的に低い。だから後者へ資金を振り向ければ、経済は刺激されるのである」

・ 「ニューライトと呼ばれる新顔の右派は、ブッシュ=チェイニー政権で台頭してきたが、実際は単に看板を掛け替えただけであり、あいかわらず古臭いコーポラティズム(いわば大企業による社会支配)を信奉している」




ジョセフ・E・スティグリッツ「世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠」(徳間書店 2015.5.31)
Prelude – 亀裂の予兆
第1部 アメリカの”偽りの資本主義
第2部 成長の黄金期をふり返る
第3部 巨大格差社会の深い闇
第4部 アメリカを最悪の不平等国にしたもの
第5部 信頼の失われた社会
第6部 繁栄を共有するための経済政策
第7部 世界は変えられる
第8部 成長のための構造変革



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