辻村深月「朝が来る」

佐都子と夫の清和は武蔵小杉のタワーマンションの高層階に住む、しつかりとした、きちんとした生活を築いている。それでも、息子、朝斗の通う幼稚園でトラブルが起こり、孤立してしまうこともあった。しかし、二人は朝斗を信じることで乗り越える。きちんとした人生だ。

一方、片倉ひかりは、ピアノ発表会の都度、家族で行くレストランを楽しみにしていた普通の女の子だった。 けれども、教師の両親が期待する女子校受験に失敗して、公立中学に通うことから影を落とし始める。 両親の希望通りの女子高に通う姉が経験できない、同級生の異性、それもバスケ部の人気者である巧と付き合うようになって・・・子どもを理解できない、表向き厳格な両親の反発しつつ、一歩一歩、まともな人生から堕ちてゆく ・・・ 

どこに、こんな違いがあるのだろう。素直さに欠ける? 考えが足りない? 我慢が足りない? ・・・ どっちかというと、私なんかは、性格的には、片倉ひかりの方だから、きちんとした人生を築く前に堕ちてゆく怖さ、悲しみが心に響いてゆく。 

不妊治療、特別養子縁組、子どもの妊娠 ・・・ 重く、きついテーマが続いて、やや読み進める楽しみが苦痛になって行くが、突然、あさのひかりに包まれるところがある。  

赤ちゃんを抱っこし、夫がその頬に触れ、「かわいいなぁ」と言う。・・・
「その瞬間、思った。
 恋に落ちるように、と聞いた、あの表現とは少し違う。けれど、佐都子ははっきりと思った。
 朝が来た、と。
 終わりがない、長く暗い夜の底を歩いているような、光のないトンネルを抜けて。永遠に明けないと思っていた夜が、今、明けた。
 この子はうちに、朝を運んできた」

確かに、子どもは、闇に朝をもたらす光だ。


辻村深月「朝が来る」(文春文庫 2018.9.10)
第一章 平穏と不穏
第二章 長いトンネル
第三章 発表会の帰り道
第四章 朝が来る



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