原田マハ「美しき愚かものたちのタブロー」


幼い頃我が家は貧しかったので、比較的裕福だった伯母が親代わりに映画などの行楽によく連れて行ってもらった。そのなかで記憶しているひとつが、西洋美術館の松方コレクションである。モネの睡蓮の絵は素晴らしく、その絵が掲載されているカタログ冊子を買ってもらった姉が羨ましかったものだ。おそらく西洋美術館が1959年6月にオープンした直後、多くの人が、いままで見たこともない西洋美術の実物を見に行った、その中にいたのだろう。それを最後に、伯母は肝臓がんでに入院してしまい、帰らぬ人になってしまったからよけい記憶にあるのだろう。

松方コレクションは、川崎造船所の元社長松方幸次郎氏がロンドンやパリで収集してパリに秘匿してあった多くの美術品である。この物語は、美術に素人の松方氏が精力的にコレクターとして活躍した経緯や、その収集を手伝った若き美術史家の田代雄一氏、そして秘匿したコレクションをナチスの目から隠すために辛苦した日置釭三郎氏など、日本の若者に優れた傑作を見せたい、日本に西洋美術館をつくりたいと、奮闘した愚かものたちのはなしでもある。

日本の敗戦によってフランス資産になったものを、返還、フランスから見れば、「寄贈」してもらうための交渉や、松方氏や田代氏が画廊をめぐって買い付けをするところが興味深い。

原田マハ氏の美術小説は久しぶりだが、いつも一定程度の読後の満足感は得られる。強い感動を得られるというわけではないのだけれども、美術には、興味深いテーマが満載ということなのだろう。たとえ美術そのものはわからなくとも、周辺の話は面白い。

松方幸次郎の言葉(原田マハ氏の創作だろうが)、「あの絵は傑作だ。色がどうとか、理屈じゃない。モネが、あの大画家が、もうよく見えんのに、必死に絵筆を動かしている様子を見ていると、わしはなんだか、わけもなく泣けてくる。 (中略) 世界中にある傑作のすべてを買い占めてやるんだ。そんな馬鹿な、陰口を叩くやつもいる。何が描いてあるのかさっぱりわからん絵なんぞに巨万の金を突っ込むなど、愚かもののすることだと。さよう。いかにもわしは愚かものだろう」・・・ は、絵の分からない私にもわかる気がする。





原田マハ「美しき愚かものたちのタブロー」(文藝春秋 2019.5.30)
1953年6月 パリ チュイルリー公園
1 1953年5月 大磯 吉田茂邸
2 1953年6月 パリ 日本大使館
3 1953年6月 パリ ルーヴル美術館
1921年7月 パリ 北駅
4  
5 1866年1月 薩摩国 鹿児島
6 1919年11月 東京 黒田清輝邸
7 1921年7月 パリ チュイルリー公園
1953年6月 パリ マドレーヌ広場 
8  
9 1921年7月 パリ 北駅
10 1931年11月 アボンダン
11 1953年6月 パリ マドレーヌ広場
1959年6月10日 東京 上野公園




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