柚木麻子「マジカルグランマ」

柚木麻子氏はたぶん初めての体験だ。諧謔というのだろうか、ちょっと苦いところもあるが婆さん女優の、自分が有名になって好きな仕事したい、というはた迷惑な我が儘し放題だが応援せざるをえなくなるような頑張り。

「マジカルグランマ」とは、作中登場人物のある女性が、正子が大好きな「風と共に去りぬ」のスカーレットの乳母であるマミーをマジカルニグロ、つまり現実には居ないご都合キャラ、ステレオタイプな黒人像だと評したことから、敷衍されている。

マジカルニグロが白人に便利なキャラで、黒人仲間にはちっともよくないように、「世間の求めるこうあるべきおばあちゃんに自分をはめこみ、それでお金を稼ぐことに正子はこれまで何の疑問も持たなかった。 (中略) 自分のようなレベルの女優にはそれがお似合いだし、みんなを喜ばせているとも思っていた。しかし、ステレオタイプをなぞることは、声を持たない人々を傷つけたことになるのではないか」

「マジカルニグロは白人しか助けない。マジカルゲイはヘテロセクシャルしか助けない。そして、マジカルグランマは健康な若者しか助けない。なぜなら、差別する側にとって都合よく作られた人格だからだ。 つまり、自分と似たような立場の誰かと助け合うことで、この世界が押しつけてくる規範に抗うことはできるのではないか」

と、このような底流が流れているようだが、少なくとも、そんな小難しい話はまったく、表に現れない。 「正子さんはそのままでいいってば。自分が一番で、自分だけが特別で、自分が一番目立ちたいのが、正子さんなんだから。それも個性じゃん、。正子さんにしかない、才能みたいなものだと思うよ」と、評されるように、婆さんが何度もくじけているのに、それでも好きに生きる痛快な物語だ。




柚木麻子「マジカルグランマ」(朝日新聞出版 2019.4.30)
正子、おおいに嫌われる
正子、ものを売る
正子、またセクハラされる
正子、お化けになる
正子、虹の彼方へ

<正子、おおいに嫌われる
古い親ゆすりの和風豪邸に住む浜田荘太郎監督と正子夫妻は、もう何年も宅内別居していた。監督は離れの小屋に、正子は母家に住む。正子はあまり売れない女優ではあったがこのところ、髪をきれいに染めたおばあちゃん役が当たり、人気者になっていた。しかしある日、離れで死後5日の夫の死体が発見され・・・・

<正子、ものを売る
監督の崇拝者だった、映画監督志望の家で娘杏奈が、押し掛け住み着くようになった。 収入の道が断たれた正子は、杏奈の始めたメルカリ利用を自ら積極的にやり始め、家じゅうのものを売りつくしてゆく・・・

<正子、またセクハラされる
仕事を求める正子は何軒か、芸能事務所に履歴書を送り悪役でもないかと面接に臨むと、アダルトものではとセクハラされる。見かねた女性が「風と共に去りぬ」の話題で助け舟を出し、マジカルニグロという言葉を初めて知って考え込む。マジカル・・の矛盾を抱えるディズニーランドに福引で当たった券で杏奈と行ってあることを思いつく・・・

<正子、お化けになる
古い嫌いだった邸をお化け屋敷にして正子が怖いお化けを演じる、そんな企画が杏奈や明美さんの努力で実現する。良くも悪くも脚光を浴び、インスタグラムの動画をみて、なんと米国で映画出演している紀子さんから電話が・・・

<正子、虹の彼方へ
お化けが縁で陽子さんとも出会い、とんでもない大逆転劇が待っていた・・・

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