ブレイディみかこ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」

ブレイディみかこ氏は、私がかなり信頼している書き手の一人である。彼女の書き物からは、必ず何がしらの示唆や知恵を授かる。イギリスはブライトンの、まるでケン・ローチの映画を見ているかのようなリアルな格差社会の姿を知ることができる。今回は、息子が公立校の中では再上位ランクのカソリック小学校から、真逆の地元の公立問題中学に入学、多様性と格差に直面してゆくエピソード満載の、すばらしく興味深い報告となった。

タイトルは、息子がノートに書きつけた「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」を借用したようだ。日本人(イエロー)とアイルランド人(ホワイト)の間に生まれた少年は、驚くほど聡明な少年だ。


よく気の付くみかこ氏と聡明な息子が見た「イングランドの現在」は、あくまで、ふたりの見た社会だ。 そのなかで興味深いトピックスを挙げておこう。

・ 「昨今の英国の田舎の町には「多様性格差」と呼ぶしかないような状況が生まれている。人種の多様性があるのは優秀でリッチな学校、という奇妙な構図ができあがってしまっていて、元底辺中学校のようなところは見渡す限り白人英国人だらけだ」

・ エンパシーは、「自分と違う理念や信念を持つ人や、別にかわいそうだとは思えない立場の人々が何を考えているのだろうと想像する力のことだ。シンパシーは感情的状態、エンパシーは知的作業とも言えるかもしれない」

・ 「It takes a village 英国の人びとは子育てについてこんな言葉をよく使う。「子育てには一つの村が必要=子どもは村全体で育てるものだ」という意味だ」

・ 「むかしなら、勉強のできない子はスポーツができるとか、そういうこともあったし、労働者階級の子どもが金持ちになりたいと思ったらサッカー選手か芸能人になるしかない、と言われた時代もあった。だが、いまや親に資本がなければ、子どもが何かに秀でることは難しい」、つまり親の所得格差が、そのまま子どものスポーツ格差にもなる

・ 「児童特別補助」pupil.premium という補助金がたくさん入ったとしても、「もう授業やクラブ活動のためだけに学校予算を使える時代じゃない。貧困地区にある学校は、子どもたちの生活というか基本的な衣食住から面倒をみなければいけない」

・ 「バス代がなくて学校に来られなくなった遠方の子のために定期代を払った教員の話、素行不良の生徒を家庭訪問した教員がその家に食べ物がなかったことに気づいてスーパーで家族全員のための食料を買った話、ソファで寝ている生徒のために教員たちがカンパし合ってマットレスを買った話」・・・・などなど事例多数・・・「貧困地域にある中学校の教員は、いまやこんな仕事までしているのだ。この国の緊縮財政は教育者をソーシャルワーカーにしてしまった」・・・日本じゃここまでやる教師はいないんじゃないかな

・ Female Genital Mulilationについて「教えなければ浪風立たない。が、この国の教育はあえて波風立ててでも少数の少女たちを保護することを選ぶ。そして、こうやって波風が立ってしまった日常を体験することも、様々な文化や慣習を持つ人々が存在する国で生きていくための訓練の一つなのだろうか」

・ 「ハーフ」はPC的に問題視されている。「ダブル」も違和感。「Mixed」「Bi-racial」もいまいち

・ 「タンタンタンゴはパパふたり」(And Tango Makes Three)は、「はらぺこあおむし」「かいじゅうたちのいるところ」と並んで英国保育業界のバイブルで、石を持ってきて温めている2羽のオスのペンギンを見てカップルと思った飼育係が放置されていた卵を石の代わりに温めさせた。やがて赤ん坊が生まれ、タンゴと名づけられた・・・」・・・日本じゃモンスターペアレントや教育ママや教育委員会などよってたかって潰すだろう

・ サッチャーは、「同性愛について学校で教えてはならないとして悪名高き「セクション28」と呼ばれる法律を作ったことがある」

・ 「ストリート・チルドレン保護支援団体のレイルウェイ・チルドレンによれば、英国では一年間で10万人以上の16歳以下の子どもたちが行方不明になっており、5分間にひとりの子どもが自宅からいなくなっている計算になるという」

・ School Absence Fine 学校欠席罰金は、「春休みとか夏休みとかいったいわゆるピークシーズンに休暇を取ると旅行運賃やホテル料金が高額になるので、学期中に子どもを休ませることを親に思いとどまらせるためにつくられた罰則」。このため、息子たちは環境ストライキデモに参加できなかった






ブレイディみかこ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社 2019.6.20)
はじめに
1 元底辺中学校への道
2 「glee/グリー」みたいな新学期
3 バッドでラップなクリスマス
4 スクール・ポリティックス
5 誰かの靴を履いてみること
6 プールサイドのあちら側とこちら側
7 ユニフォーム・ブギ
8 クールなのかジャパン
9 地雷だらけの多様性ワールド
10 母ちゃんの国にて
11 未来は君らの手の中
12 フォスたー・チルドレンズ・ストーリー
13 いじめと皆勤賞のはざま
14 アイデンティティ熱のゆくえ
15 存在の耐えられない格差
16 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっグリーン


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