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カミュ「ペスト」

カミュの著作を手にしたのは何十年ぶりだろうか。 学生時代によく読んでいたはずだが、「異邦人」や「シジフォスの神話」ぐらいしか記憶にない。「ペスト」の記憶はなく、多分読んではいなかったのだろう。1947年6月発表というから、私の生まれる前の作品だ。その割には、決して古びた感覚はなく、つい昨年発表されたと言われても信じただろう。 フランスの…
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池田雅之・三石学「熊野から読み解く記紀神話」

記紀神話の話はほんとうに興味深い。古代の話は神話であって実際の歴史ではないが、多少は実際の出来事の影響を受けていると想像するから、出雲にせよ、熊野にせよ、日向にせよ、神話の起源の地をあてはめたくなる。 熊野と神話にまつわる複雑な話を簡単に分解すると、イザナミの最期を記念する花の窟、天上・地上・地下の三つの世界を行き来できる神スサノ…
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マーティン・ファクラー「データ・リテラシー」

「データ・リテラシー」を高める、ということは、私たちにとっては、フェイクに踊らされないよう、情報のソースを丁寧に選択し、複数のソースからの情報を吟味して、正しい方向を見通すということだ。 筆者は、ジャーナリストとしての立場からの提言と、一般の人びとに対するお薦めを語っているが、日本のジャーナリズムは、今までだって一度だってまともなジャー…
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小松和彦「神になった日本人」

筆者は、神社などで祀られることを「神になった」と称している。 確かに、秀吉や家康など、なんで神格化して祀るんだろうと素朴な疑問が湧くが、シンプルに考えれば、祀りたい人々、祀ることによって何らかの利益を得る人々がいるのだろう。 そのパターンを筆者は、顕彰型の神と名づけている。 本当に神として祀らざるを得なくて祀っているのは、祟りを怖れた、…
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保坂正康「近現代史からの警告」

保坂氏の歴史解説は、古い歴史学者の方法とは異なり、実証的で、ジャーナリスティックであり、いかなる意味でも偏りがない。だから、個々の人間がよく見える。それはともすれば、嘘っぽい人間賛美になりかねないが、保坂氏はいたって冷静で、かつ優しい。不思議な人である。 東アジアの近現代史は、わたしの最も関心の高いものだ。 そのなかでも、日本と日…
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水野和夫・山口二郎「資本主義と民主主義の終焉」

平成という時代を二人のリベラルな学者が読み解く。「平成」でくくるのは、何ら根拠のないことだが、そういう見方もあることは日本では仕方のないことでもある。平成は冷戦の終結とともに始まり、民主主義の終焉が強く予想される中で終わった。何にもいいことのない時代だったともいえる。筆者は、平成という時代は、「理想が終わった時代」、「戦後が終わった時代…
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斎藤真理子責任編集「完全版 韓国・フェミニズム・日本」

雑誌の特集が追加の稿を含めて独立した本になったもの。小説、論文、エッセイ・・・と、なかなか読みでがある。 おもに、韓国の文学におけるフェミニズムの話題を論じている。きっかけは、なんといっても、チョ・ナムジュの「82年生まれ、キム・ジヨン」の爆発的なヒットであろう。韓国及び日本女性が、この本に賛同し、自分のことだと涙したのは当然としても、…
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町山智浩「映画には「動機(ワケ)」がある」

数ある映画評論家と大雑把にひとくくりしたら失礼かもしれないが、その中で町山智浩氏はいちばん好きだ。好きな理由は、最も知性的だと感じること、バークレーに住んで米国事情に明るいこと、しかも守備範囲がハリウッドに限定されていないこと、ギレルモ・デル・トロのファンであること、悪いことは悪いと体制批判をいとわないこと・・・・などなどたくさんある。…
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野村進「どこにでも神様 知られざる出雲世界を歩く」

出雲の神々についての歴史的な考察でも見られるかと思いきや、思いもかけないご当地紀行ドキュメント、それも結構軽い。 大きく分けて、若い女性たちを中心とした出雲の神社紀行、石見岩見神楽を支える信じられないくらい多くの人々、そして境港の水木しげるロードとその成功の秘密、が語られている。 まず神社巡りだが、「出雲大社はむろん、出雲地方の信…
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大作晃一・多田多恵子「美しき小さな雑草の花図鑑」

雑草という草はないとは言うが、望んでもいないのにやたらにはびこる草は面倒だ。 それに多くの雑草は、花も美しくない。その理由を初めて知った。 「同花受粉は近親交配になるので、遺伝的には不利益を生じます。しかし、それ以上に雑草たちは種子をつくることを優先させています」。同花受粉だから、「虫が来なくてもいいとなると、当然、花弁の宣伝にも力が入…
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荒山徹「白村江」

たいへん興味深い歴史的事件を、すこぶるユニークな想像力、いや創造力豊かな物語としてつくりあげた。古代の歴史は小説で知るのも一つの方法だ。所詮本当のことはわからないのだから。しかし、この葛城皇子(天智天皇)の白村江の戦いに向けた謀略は、ちょっと破天荒に過ぎるように私には思える。この説はある種の「日本すごい」論に通じている気さえする。半島を…
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山本太郎「感染症と文明 共生への道」

感染症は人類の歴史の大きな要素となっている。農耕定住生活に変わってから、感染症が多く出現するようになった。排せつ物が近くにあり、家畜動物との接触が増えたからだ。何度かの大規模な感染症の経験で、旧世界は、まったく感染症に無防備な新世界を難なく植民地にしてきたと言う説には説得力がある。そして、天然痘は撲滅できたけれども、しょせん、感染症をゼ…
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チャン・ガンミョン「韓国が嫌いで」

著者のチャン・ガンミョン氏は記者出身で、多作の作家らしい。若手女性作家のドキュメンタリーのような、おしゃべりするような話し方で綴られた快作で、作家が「既得権側」に住む、中年おじさんとは信じがたい、柔軟で、みずみずしい、若者らしい視点の書きぶりだ。 主人公のケナは、両親と三人姉妹の真ん中で、アヒョン洞の貧しい町に住む。父親も、姉も妹…
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水沢不二夫「検閲と発禁」

これはたいへんな労作であり、良書である。 明治中期から太平洋戦争の最中まで、出版物の検閲の経緯や内容について、実際の資料に当りながら、歴史的内容を詳細に論じるばかりでなく、森鴎外や芥川の著作や随筆を、検閲を意識したと思える著述だとして、かなり勇敢に仮説を論じたりもしている。どれも、私にはたいへん目新しい内容である。  検閲と発禁に…
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チェ・ウニョン「わたしに無害なひと」

最近の韓国作家の本には作家のあとがきが付されているものが多い。 ここでもチェ・ウニョン氏はこんなことを記している。 「この短編集の七編の物語には未成年の私が通り過ぎてきた時間が浸み込んでいる。軽んじられ、大人の都合で利用される幼い体と心について、私はこの物語を書きながら長いこと考えた。子どもだけが感じることのできる孤独、限りない悲…
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奥田英朗「罪の轍」

刑事もの、事件ものの小説は久しぶりだ。「64」以来かな。いつも、小説でも、非小説でも、本から何かを「学ぶ」という要素を捨てきれない、そんな読み方をしてしまうが、この「罪の轍」のような刑事もの事件物の小説は、何も考えずに、先を読みたくて読み進める。そういう純粋な小説読みを思い出させてくれる。 時代と場所は、東京オリンピックを来年に控…
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松岡正剛「日本文化の核心」 

これはよくできた面白い本だ。日本の文化、日本人と日本の歴史について、知っているようでよくは知らない話、常識のようでいて本当には詳しくわからない話、そして知りたくて知るとすぐ忘れてしまう話、そんな話が満載である。 言葉遊びとは言わないけれど、言葉の成り立ちや変遷で事物のあり様を明らかにする、それで、ほほーっと感心する、という講演がよ…
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マーティン・リース「私たちが、地球に住めなくなる前に」

いい本だと思うが、私にはちょっと難しすぎた。もう少し正確に言えば、この本を読み続け、筆者を理解するには、私には、がまん強さが足りなかった。晦渋というわけでもないが、もともと難しい題材である、退屈せずに読み続けるには、読み手の知識やリテラシーがある程度ないと、筆者を理解できない、というだけのことである。 本論とは直接関係ないところで…
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チョン・ソヨン「となりのヨンヒさん」

なかなかユニークなSF短編のあつまりだとおもう。韓国の小説らしい社会派的なものもなくはないが、どちらといえば、かなりユニークな作家のパーソナルな想像力がつくりあげた作品だ。底流としては、あまり明るいものではなく、私の好みに合わないものも少なくなかった。その中でも、「となりのヨンヒさん」はもっとも好きな短編だ。楽しく、意外で、情感がある。…
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田中利幸「知られざる戦争犯罪 日本軍はオーストラリア人に何をしたか」

たいへん良い、貴重な本だ。田中氏のような地道な研究者は貴重だ。副題の「日本軍はオーストラリア人に何をしたか」というように、日本軍がオーストラリア人の捕虜に対する虐待・虐殺、オーストラリア人従軍看護婦に対する強姦・虐殺の疑いなどを、BC級裁判資料などに基づいて詳細に解説している。日本軍側の資料はほとんど失われていて、生存者も少なく、真相究…
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鈴木純「まちの植物のせかい」

どこにでもいる身近な植物を「植物観察家」の鈴木純氏が、徹底した接写の写真を使って、植物の意外な真実?を明らかにする、私にとっては、大変すばらしい、魔法のような本だ。 ただ、雄蕊や雌蕊をたんねんに探すとか、私から見ればかなりマニアックなので、真似はできないな。 たとえば、ムシトリナデシコは、茎に茶色のべたべたがあるが食虫ではないとか…
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パオロ・ジョルダーノ「コロナの時代の僕ら」

イタリアはローマに在住の物理学者にして作家のパオロ・ジョルダーノ氏の随想である。ミラノの惨状が起こり始めるころ、感染症、コロナに直面した今を語っている。 理系頭脳の理性的、合理的見方と、たいへんまともな世界観、倫理観に裏打ちされたメッセージが心に染み入る。 といっても、それほど記憶に残るようなもの珍しい言説を語っているわけではない。ただ…
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小川俊樹「五・一五事件」

まず、これは絶対にお薦め本だ。 二・二六事件に比べて五・一五事件はあまりよく知らないし、本も少ないように思う。犬養首相暗殺くらいしか知らない。しかし、この本を読むと、二・二六事件よりもずっと時代を転換させた事件だったとわかる。 事件により、せっかく軌道に乗りつつあった「憲政の常道」、政党政治が断たれた。昭和維新の運動を民間ではなく…
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黒井千次「老いのゆくえ」

黒井千次ともあろう作家の書く「老い」だから、さぞ、興味深い、深みのある話がちりばめられているのだろうと、ほのかな期待はしたが、みごとに振られた。 あとがきを見たら、きちんと書いてあった。「可能なかぎり率直に、老いていく自分を描き、その感覚や感情を記していくことを目指した」と。「事実、<老い>の進行は数知れぬ失敗や事故や異変を…
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金敬哲(キム・キョンチョル)「韓国 行き過ぎた資本主義」

「行き過ぎた資本主義」という言葉が妥当なのかどうかはわからないが、韓国社会の過酷さは大変よく分かった。  2011年に誕生した恋愛・結婚・出産を諦めた「三放世代」が進み、あらゆるものを放棄する「N放世代」となった・・・・、5歳未満の子供たちまで英語発音能力を高めるための、舌の下側を切開して舌を長くし柔軟性を高める手術をする「大峙洞…
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メーガン・C・ヘイズ「幸せに気づく世界のことば」

たいへん楽しい、絵本のような本だ。 文章はともかく絵が素晴らしい。 世界各国の言葉で、筆者が「Happiness Passport」と思うような言葉を集めて、なぜその言葉が幸福につながるのかを、文化や背景、人びとの思いを解説している。そんな、素敵な本ではある。 当然のことに、そこには筆者の幸福感が滲み出ている。 筆者は、作家であり…
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ブレイディみかこ「This Is JAPAN 英国保育士が見た日本」

この本も間違いなくお薦め本である。ブレイディみかこ氏の著作は過去何冊か体験していて、その都度、目からうろこの発見をしている。大所高所からみた話ではなく、地べたの英国生活、保育士の体験、それらを通した確かな視点が、半端ない批評にまでなっている とくに要約することもないが、日本の新自由主義的過酷さは、英国に引けを取らないし、人権に対す…
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リチャード・パワーズ「オーバーストーリー」

これは素晴らしい本だ。わたしにとって今年最高の小説と言っていい。600ページを超える大作だから一気に読むことはできなかったが、大河小説のように、群像劇のように、壮大なスケールで、時代を俯瞰してゆく。まるで巨木の先端から世界を見るように。 展開してゆく。 訳者あとがきに訳者が要約したものが挙げられている。 「「オーバーストーリ…
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テッド・チャン「息吹」

映画「メッセージ」の原作、「あなたの人生の物語」の作者、テッド・チャンの待望の二冊目らしい。ひどく寡作な人らしい。 映画「メッセージ」はたいへん感動的な素晴らしい映画だった。原作と100%同じではないが、この映画のように、一つの解釈を経た作品を味わうのが、テッド・チャンの小説のよい読み方かもしれない。というのも、それぞれたいへん興味深い…
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マルクス・ガブリエル「世界史の針が巻き戻るとき」

日本人の聞き手にインタビューしたものをまとめた本のようだ。だから、日本の話題もあるし、聞きやすい(読みやすい)けれども、だからといって、「新実在論」がわかりやすくなるわけではない。 「今我々に起きている危機―価値の危機、資本主義の危機、民主主義の危機、テクノロジーの危機―の現状を解説して解決策を探り」、それらの危機が集約される「表…
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