加藤直樹「TRICK トリック 朝鮮人虐殺をなかったことにしたい人たち」

この本は日本人必読の書だ。工藤美代子・加藤康男の「関東大震災「朝鮮人虐殺」はなかった」という本の、朝鮮人虐殺を否定する方法、つまりトリックを明らかにして詳らかに解説する。こういうことは絶対必要だ。自民党都議が小池知事に勧めたように、歴史修正主義者が、この本に書いてあるからと勧めたその場で、否定する本を読めとカウンターできる。

しかし、工藤夫妻の、朝鮮人虐殺は「なかった」本は、読む気もしないが、筆者の説明で、酷い本だということがわかる。 筆者は大きく分けて、7項目のトリック方法を指摘している。 もっともシンプルで大胆なのは、大震災が発生した直後のデマを報じた新聞記事を、朝鮮人暴動があったという証拠にしていることだ。新聞報道が後に虚報であった、噂のようなことはなかったと報じていてもそちらは無視するのだ。こんなトリックはすぐばれるだろうに。

おそらくばれても気にしないのだろう。歴史修正主義者の目的は、別に彼らの説を正史にしようというのではない。「諸説あってはいけないのですか」と、「虐殺はなかった」も、ひとつの説に認められれば良いのだから。諸説あるもののひとつの説を公教育の場で取り上げるべきではないとか、慰霊の催しや追悼文の送付や、さらに慰霊碑まで、政府や都などの公の組織がやるべきでないとか、言えるから

映画「否定と肯定」のモデルになったデボラ・E・リップシュタットは、ホロコーストを否定する者について、「否定者は、論点が真っ二つに割れていて、自分たちがその”一方の立場”にあると認知されたいのである」。つまり「対立する学説がある、という構図にさえもっていければ、否定論者の”勝ち”」なのだ。なぜなら、「一般の人々は、「判断保留にしようとか、真実はたぶんその中間にあるんだろうとか考えるようになる」」からだ。そして、「彼女は、否定論者と「論争」してはいけないと強調する。それは「諸説ある」という構図をつくってしまうからだ」と主張している。だから、筆者の加藤氏は。工藤夫妻の書物を、「一つの「説」であるかのように扱い、議論するのではなく、これは一体どのような「トリック」だろうかと客観的に吟味し、解明し、そのカラクリを人々の前で明らかにすることである」、「これは学説や意見ではなく「手品」だ」と。

トリックでも利用していたが、当時の官憲が、少しでも朝鮮人虐殺の印象を弱めたかったのだろう、9月5日の 「朝鮮問題に関する協定」で、「風説を徹底的に調査し、これをできるかぎり事実として肯定せよと言っている」のは酷い話ではないか。そして、「司法省の「朝鮮人の犯罪」リストはこのような意図によって作成され、朝鮮人問題の報道解禁時(10月20日)に、各地で起こった自警団事件の発表にぶつけて同時に発表されたのである。しかし「風説」をかき集めただけあって、その内容は信憑性に乏しい。第一に、リストに登場する人物の多くが「氏名不詳」である」と。それでも、「この司法省のリストも、朝鮮人暴動があったと主張しているものではない」。結局のところ、「震災から数か月が過ぎた頃には、ほとんどの人が「朝鮮人暴動」は存在しなかったと考えるに至ったのである。その理由は簡単だ。結局、誰も朝鮮人暴徒をみなかったからだ」

南京事件でも主張された人数の件はここでも主張される。"犠牲者の数が怪しい→事件そのものが怪しい→なかった" という流れを作り出しいのだろう。朝鮮人虐殺6000人は嘘で、極小化したい主張だ。 しかし、歴史修正主義者に言われるまでもなく、「関東大震災時に殺された朝鮮人の数を正確に特定することは不可能である。そのことは研究者が口をそろえて指摘している」。「韓国のポピュラーな百科事典である「斗山世界大百科事典」のウェブ版で「関東大虐殺」の項を読むと「虐殺された韓国人の数は明らかではないが、吉野作造は著書「圧迫と虐殺」で2534人と、金承学は「韓国独立運動史」で6066人と集計している」」

そのほか、誰も知らない、すでに亡くなっている人の証言を取り上げたり、史料を都合に合わせて切り貼りしたり、引用部分で都合のよいところだけ取り上げ、都合の悪いところを勝手に省略したり、参照資料に書いてないことを参照したといってみたり ・・・ たいへん、お粗末な内容であっても、いったん本になれば、強い影響を及ぼすのだ。 

横浜市の中学生向け副読本「わかるヨコハマ」の「虐殺」記述が問題視され、徹底した回収の上で「改訂版」が出された」。「虐殺」という表現、軍や警察の関与の記述が、「我が国の歴史認識や外交問題に極めて大きな影響を及ぼしかねない」という理由だ。 また、「東京都教育委員会が発行する都立高校向け副読本「江戸から東京へ」でも、13年版で朝鮮人虐殺の記述が削除されている」

筆者は、横網町公園にて朴元厚ソウル市長が語った言葉で、核心をつく。「歴史は、記憶する者にこそ与えられます。新しい未来に向かう歴史を綴っていくためには、私たちは全ての残酷な歴史を記憶しておかなければなりません」



しかし、南京事件否定本、沖縄戦の日本軍による住民惨殺・自決強要否定本、嫌韓本にも、このようなカウンター本があってほしいものだ。
 


加藤直樹「TRICK トリック 朝鮮人虐殺をなかったことにしたい人たち」(ころから  2019.6.29)
まえがき
第1章 虐殺否定論はネット上のフェイクである
第2章 虐殺否定論はトリックである
第3章 虐殺否定論は社会を壊す
付録1  工藤夫妻の示す「証拠」史料を検証する
付録2
あとがき



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