日野行介「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」

日野行介氏は原発事故の後のジャーナリストとしての活動が際だっているが、311当時は大阪から来た援軍だったらしい。福島県の県民健康管理調査は、事故後の被曝による健康への影響を測定し、もしあれば極力影響を防ぐ措置が望まれる、たいへん重要な事業だ。原発事故の経験としては、広島・長崎を別にすればチェルノブイリしかないわけで、福島の事故後の状況を正しく調査することは極めて重要なことだ。

しかし、国はこの健康調査に関わることがなく、県も、ほんとうのところ、その目的も動機も熱意もあやしい。福島県の県民健康管理調査の目的は、当初、県民の不安の解消を掲げていた。 福島県弁護士会の「本田弁護士は、そもそも、秘密会発覚以前から県民健康管理調査のあり方に疑問を抱いていたのだという」。それは、「「不安の解消」を目的に掲げているが、結果として解消されるのはいいが、目的にはならないはず。被曝量の低減、疾病の未然防止が目的でないのがおかしい」。

「なぜ隠蔽や情報操作をする必要性があるのか。それらが発覚したとき、彼らは判で押したように、「不安をあおらないため」「パニックを防ぐためだった」と釈明する」。 よく聞く言葉だが、為政者はそんなに住民や大衆が不安に駆られて行動することを恐れているのだろうか。その結果、自分たちに不利益を招くからに過ぎないのではないか。県民健康管理調査は、「やはり被曝による被害を過小評価したい、ということに尽きるのではないだろうか」と筆者も指摘している。

過小評価にしたい、調査開始時点での隠蔽や情報操作の疑いはいくらでもある

・ 検討委員会の構成は、「事故によって避難した被災者や、内部被曝の危険性を強く指摘している研究者も、検討委員に入っていない」

・ 健康管理調査検討委員会の秘密会は、本会合のシナリオを決め、議題を限定、一定の意見に誘導する役割を果たしていたが、日野氏の調査報道によって明るみに出て、秘密準備会は実施できなくなった

・ チェルノブイリで、「IAEAなどが因果関係を認めたのは事故から10年後の96年だった。それも隠し切れないほどの増加がみられた「小児の甲状腺がん」だけを、自己の影響として認めた」ことに準じて、小児の甲状腺がんだけをスクリーニング対象としている

・ 「鈴木教授が「今は一日900人実施している。単純なシステムを開発した」と誇らしげに」語ったが、観察項目を削ってスピードアップを図ったものだ。それで漏れるリスクはほんとうにないのだろうか。

・ そもそも低線量被曝についての基礎データも不足しているのに、「尿検査であれば全身で約六ベクレル以上を検出できるが、一般的なWBCだと250~300ベクレル以上でなければ検出できない」にもかかわらず、尿検査をしない。「矢ケ崎名誉教授は「検出限界が高いWBCでは「不検出」になるケースが多くなり、内部被曝がなかったことにされかねない。被害の切り捨てにつながる」と警鐘を鳴らしている。 この尿検査に関する発言が全て、非公開だった本会合の議事録から削除された」

・ 「県民健康管理調査の基本調査は、事故後四か月間の行動記録を提出するように求めている」が、本田弁護士は、「出していない。低線量被曝は健康被害を起こさない前提でこの事業はやっている。けれども可能性がある前提で事業をしないと、県民としては何のための調査か分からない」という。 始めから健康に影響なしという結論ありきで調査しても、確かに意味がないだろう。

・ 国連人権理事会・特別報告者のアナンド・グローバー氏は、「疾患の発症に下限となる放射線基準値はない」、つまり、「しきい値なし直線仮説」(NT仮説 : 低線量被曝でも被曝線量に比例して健康影響が発生する確率が直線的に高まる) と主張し、100mSVや20mSV以下なら問題ないとする説を強く批判している。 また、

・ 同じくグローバー氏は、「甲状腺検査の画像やレポートが保護者に渡されず、受け取るために煩雑な本人情報の開示手続きを求めている県に対して、「自分の医療記録にアクセスする権利を否定している」と述べ」、人権問題として批判している。


招聘された長崎大の教授や専門家たちは、すぐに、「科学的」という言葉を使って、住民の不安を、根拠あるデータがないと、否定する。 しかし、低線量被曝や内部被曝については、参照となるデータが限られているのが現実で、チェルノブイリではこうだったからあり得ない、などと甲状腺がんの因果関係を認めない専門家は、私には科学的態度とは思えない。ひとつのサンプルで判断するのが科学的態度ではないし、そのサンプルだって、チェルノブイリでデータを取り始めたのは事実上四年後だったから、それ以前のデータはないのだ。

そして、批判する住民を「プロの活動家」と切って捨てる態度は、専門家の傲慢にすぎないだろう。

しかし、福島では、この県民健康管理調査も、知事のリーダーシップがみられない。 「福島県はSPEEDIのデータを国から受け取りながら消去した。ヨウ素剤を指示する権限は県知事にあったが、配布指示を出さなかったどころか、配布した三春町に止めるよう指示までしていた」という話もある。 事故そのものも震災津波対策を怠った人災であるし、事故後の対応も多くは人災なのだ。 そのあたりに、「闇」の根源が横たわっているような気がする。 





日野行介「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」(岩波新書 2013.9.20)
プロローグ
1 取材開始
2 県民健康管理調査とは
3 秘密会
4 甲状腺がん、見つかる
5 シナリオ
6 何を決めていたのか
7 改竄された議事録
8 甲状腺検査
9 批判
10 原子力規制委員会
11 直接インタビュー
エピローグ





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