吉川徹「分断社会と若者の今」

社会学という学問は、領域によっては、どうも好きになれないところがある。学問としては、論の証明や根拠が必要であって、社会意識については、アンケートのような方法がよくつかわれる。その数字をもとに多変量解析などで分析される。しかし、いわゆる社会調査などの質問や回答の選択肢には、どうしても曖昧さが免れず、曖昧な結果を集めて解析しても誤差が大きいだろう。さらに、分析結果が出ても、その解釈がやはり恣意的な解釈になりかねないのだから、極論すれば意味がない。多くの場合は、そんなこと調べなくたってわかりきってるやないか、と言いたくなるようなものもある。

ましてや、「若者論」は、見田宗介の時代から、宮台真司、古市憲寿にいたるまで、ある側面を取り出した論にすぎない。「若者」総体を論じること自体が無謀な取り組みなのだ。この本は、階層と社会意識全国調査プロジェクトを母体に、一部、若者についての考察を進めたもので、もともと「若者論」が目的ではない。調査の対象を、男・女、大卒・非大卒、壮年・若年の組み合わせで、8つのグループに分けて調査・武関を行っている。 そして、テーマは、幸福観、仕事観、政治意識、自民党支持、性別分業の評価・・など、多角的な視点における調査結果を提供している。 私にとって、関心のある政治意識を中心に、いくつか挙げておく。 分析の途中経過もあって結論とは限らない。


・ 「学歴の低い若者については、不安定なライフコースを歩むことで将来展望が困難となり、将来よりも今を楽しむことを重視する。そして身近な「今、ここ」を大事にすることは、社会に対する無関心につながり、結果的に社会に対して異議申し立てを行わない「おとなしさ」につながっていくだろう」

・ 「日本の若者で「他人に迷惑を掛けなければ、何をしようと個人の自由だ」と考える人は他の国と比べて非常に少ないことがわかる。その一方、自分が参加することで、社会の状況を変えられるという意識を持つ人も少ない」

・ 「競争不安や閉塞感を感じているからこそ、社会的な評価の高い安定した職業を目指すという物質主義的な価値観を重視し、それが権威主義を強めるというメカニズムが存在しているといえる」

・ 「格差社会化という認識が強まる中、いくら努力しても報われず、あらかじめ家庭環境等によって人生は決められているという「宿命主義」的社会観が若者に広がっているという。この社会観からすれば、政治や社会を変えるという発想そのものが無意味であり、現状をそのまま受容するほうかうまく生きられる。このようなシニカルな社会観が「自民党しかない」という発想につながっているのかもしれない」

・ 「階層の高い若者、具体的には大卒男性、大企業ホワイトカラーが自民党支持を強めていることがわかった。これが若者の自民党支持が低下傾向を示さない背景にあると考えられる」

・ 「元来、保守政党は「自助」を強調し、社会主義的な発想とは距離を取ってきた。「うまくいかないのは努力が足りないからだ」「がんばれば必ず成し遂げられる」という発想である。しかし、若者における自民党支持はそれとは正反対の発想による。「どうせ努力しても報われないのだから、長いものに巻かれるしかない」という、権威主義でしかない「宿命」主義が、自民党支持につながっている」

・ 「大卒男性は仕事でどのような経験をできるかが自由の獲得にとって重要であるのに対して、非大卒男性は仕事によって私生活が侵食されないかどうかが自由の獲得にとって重要になっている」






吉川徹「分断社会と若者の今」(大阪大学出版会2019.3.29)
序章 分断社会を生きる若者たち
第1章 現在志向から捉える現代の若者
第2章 若者の従順さはどのようにして生み出されるのか
第3章 若者はなぜ自民党を支持するのか
第4章 若者の保守的態度は消費を抑制するのか
第5章 若者の人生評価
第6章 非大卒若者の大学離れ
第7章 若者にとって自由な働き方とは何か
第8章 性別役割分業意識の新局面

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