エトガル・ケレット「あの素晴らしき七年」

エトガル・ケレットという、イスラエルの作家。多分私には初めての体験となるが、なかなか機知とユーモアに富んだ、しかもなかなか卓越したストーリー・テラーでもある。母親の故郷でもあるポーランドで訳書が結構ヒットしたのがうれしいとも語っているように、ホロコーストの歴史や中東戦争の体験がいまも脈々と生活の中に息づいている。

息子レヴの誕生から7年、父親の死まで、一年に数個のエピソードを語る。家族の話だったり、仕事の出張だったり、その範囲は縦横無尽といってもいい。

たとえば、三歳の息子が軍に入らなくても済むようにすべきと語る人に戸惑っていると妻も同じ考えだという。軍隊に入ることを賛成する、本人の意志に任せるエトガルと、息子が生まれた時から兵役に就かせないと考えてきた妻。妻は不満を吐露する。「わたしたちの国のリーダーたちがそうせずにいられるのは、たいていの人があなたみたいに考えるってことをあの人たちが知っているからだってことなのよ。あなたみたいな人たちは、なんのためらいもなく政府の無責任な手に自分の子どもを委ねてしまうんだわ」・・・・

たとえば、イスラエルは常に戦争の危険がある。家族三人で走行中、空襲警報が鳴って急ぎ車を停め、道路脇に伏せるために幼児のレヴにサンドイッチの真似値をするゲームと称して、妻、息子、私と折り重なって伏せたり・・・

ヨム・キブール(大贖罪日)が静かな日なので、ナオミ・クライン風のコンセプトに思えたようだったり・・・ときにはユダヤの行事を知ることもできる。

また、レヴがどうしてパパは僕を守るのと聞かれ、「パパやレヴがいるこの世界で生きていくってのは、ときとしてすっごく辛かったりもするんだ。だから、そこに生まれた人にはみんな、少なくとも一人は誰か守ってくれる人がいる。そうであつてこそ、フェアだと思わない?」

・・・・ たいへん、話題が豊富で、楽しいエピソード、ときには、シュンとする哀しい話もある、おすすめの本。


タイトルの「あの素晴らしき七年」には、「創世記でヨセフが行ったファラオの夢解きにまつわる聖書的含意」があると訳者が解説していた。それは、これから起こる七年間の豊作とそれに続く七年間の飢饉に備えて食糧を貯えさせた、という、その豊かな前半の七年間だという。





エトガル・ケレット「あの素晴らしき七年」(新潮社 2016.4.25)
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三年目
四年目
五年目
六年目
七年目





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